犬のニキビダニ症の特徴と治療方法(ニキビダニ動画あり)

目次

  1. まず初めに
  2. ニキビダニ症とは(その特徴)
  3. ニキビダニ症の治療を考える
  4. 無治療で治るか?
  5. 猫はニキビダニにかかるのか?
  6. リスク因子
  7. 飼い主の治療上の心構え
  8. コリー犬種への薬の投与の考え方

まず初めに

今回は皮膚病について考えたいと思います。
さて、この犬の皮膚の写真ですが、何の病気だと思いますか? なんの情報もなしで、病名を絞ってください。出来るなら拡大したほうがいいかもです。
結論から言えば、この犬はニキビダニ症だったんですが・・当たりましたか?

実は皮膚の病名を当てることは案外簡単です。
メジャーな病名を2,3個覚え、それぞれ特徴さえ記憶すれば皮膚病を当てることは飼い主さんでも8割がたできます。ホントに難しいのは残りのわずかです。

とりあえず今日はニキビダニ症がテーマなので、この病気の特徴を覚えていきましょう。

さて皮膚病を診るうえで最も大事なことは皮膚の状態を観察することです。
さっそく上図を観察しますと。

皮膚を見て・・
  • 皮膚が赤い。。炎症だ
  • 毛穴がボツボツしている。。毛穴に問題があるのかな?何か詰まってる?
  • 毛穴が黒ずんでいる。。汚れがつまってる?色素沈着してる?
  • 比較的、異常皮膚と正常皮膚の境界はハッキリしてる。。掻いてるか、こすってるな?
  • 皮膚が厚そう。。経過が長い?
  • 薄毛だけど、毛はまばらに残っている。。毛根の病気ではなさそうだ?
とは思いませんでしょうか?
これはニキビダニ症の特徴です。

ニキビダニ症とは(その特徴)?

ニキビダニは毛穴に住むダニです。健康な皮膚や腸内にも細菌や酵母が住み着いているように健康な毛穴にはニキビダニが住み着いています。そのためニキビダニの存在は普通は問題になりません。しかしいったん免疫が崩れたり、皮膚に問題が生じるとニキビダニが異常に増殖し、ニキビダニ症という病気になってしまいます。
ニキビダニ症にかかってしまった場合、動物の免疫や皮膚には何らかの疾患が生じている場合が多くケアは一生続くこともあります。

*ニキビダニ症とはニキビダニ(Demodex canis..D injai..)の増殖・・~どうとか、専門的な話は置いておきます。

ニキビダニ成虫。腹の卵見えますか?

動画:手振れ激しいですが・・



ところで、ご自分の頭の中で皮膚の解剖が浮かびますか。
解剖図が頭に浮かぶことは病気を想像するうえで最も重要な知識です。なんとなくでいいので、覚えておいたほうが病気をイメージしやすいです。

hair anatomyより



ここでニキビダニの特徴を記します。上述の特徴にちょっと加えてある項目があります。

ニキビダニの特徴

毛穴の特徴
  • 皮膚が赤い。。
  • 毛穴がボツボツして目立つ。。毛穴が開いていると表現する獣医もいる
  • 毛穴が黒ずんでいる。。
皮膚の特徴
  • 顔面や足先(特に前足)にできやすい 
  • 正常皮膚の境界は比較的ハッキリしてる。。重症は除く
  • 皮膚が厚そう。。経過が長い場合
  • 毛はまばらに残っている。。重症は除く
また先の写真の上の方をよーく見ると、赤くなっているのが毛穴に一致しているのが分かりますでしょうか??これは毛包一致性の紅斑といい。毛穴に病気の本体がいる症状とされています。

本犬は典型例ではありませんでしたが。。
目の周り、口回り、足先(特に前足)によく発症します。

鑑別診断

毛穴が目立つからと言って、ニキビダニ症とは限りません。
毛穴には細菌もすんでいます。カビがいることもあります。
皮脂が毛穴に詰まって炎症が起きている可能性もあります。
これは解剖図を見て想像すれば容易く到達する疑問です。

皮膚を見れば、ニキビダニ症で間違いないと思うのですが
多くの場合、2つか、3つの原因が同時に生じていますので、合併した病気を調べるためにも皮膚の検査は必要です。

*もちろんその他感染や内分泌、遺伝性疾患、腫瘍や自己免疫疾患(アレルギーを含む)などの可能性も皮疹の特徴、検査から排除していますがコメントは割愛します。すべてを記していては記事が爆発するからです。 

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ニキビダニの治療を考える

米国ではニキビダニ症の治療は全身に広がっているのか?身体の一部分でとどまっているのか?で治療法の選択肢が増えたり、減ったりしますが、日本では基本的に内服薬(あるいは皮下注射)になります。 

1:内服薬(投与前にフィラリアに感染してないことを確認すること)

  • イベルメクチン(商品名:アイボメック、メリアル)
昆虫の神経を麻痺させることで治療効果を発揮する。
コリーとつくあらゆる血統で使用ができない事で有名な薬(*1 MDR-1遺伝子変異、文末で解説)。
もっとも歴史があり、治療では第一選択となる。
そしてなにより安い。。治療期間が半年にわたるニキビダニ治療では重要!
  • ミルベマイシン(商品名:ミルベマイシン・オキシム、エランコ)
昆虫の神経を麻痺させることで治療効果を発揮する。イベルメクチンに並び歴史が長く信頼性が高い薬。使用に関してはイベルメクチンより安全といわれるが、コリー犬種には慎重投与が進められる(MDR-1遺伝子変異)。そしてイベルメクチンに比べると割高。
  • ドラメクチン(商品名:デクトマックス、ゾエティス)
日本では上記の2薬で効果がなかった時に登場することが多い。治療開始1か月目のニキビダニ減少率95%は標準薬と比べても遜色ない。。。がやはりコリー犬種には控えるべき薬。投与方法を工夫すれば、週一の皮下注射でも治療可能なので、薬が飲めないペットにはいいかも??
  • モキシデクチン(商品名:モキシデック、ゾエティス)、モキシデクチン+イミダクロプリド(商品名:アドボケート、バイエル)
比較的、軽症のニキビダニ症、あるいは、他の薬が効かなかったときに勧められる。
コリー犬種にも安全に提供できるのは強み。
皮膚に滴下するタイプもあるため薬が飲めない子には良い。
ただ1-2週間に1度の投与が必要となり、長期間の治療が必要なニキビダニ症では高くつくかもしれない。


以下。新しい薬のため効果は検証中。
  • フルララネル(商品名:ブラベクト、メルク)
昆虫の神経を麻痺させることで殺虫する。ノミダニに対し3か月の駆虫効果を示す事で有名。ある報告によれば全身性のニキビダニ症に対し、モキシデクチンより有意に素早い効果が認められた。コリー犬種にも安全に使用可能。テンカン発作もちのペットには慎重投与すべき。
  • アフォキソラネル(商品名:ネクスガード、メリアル)
昆虫の神経を麻痺させることで殺虫する。8週齢の子犬にも安全性が示されているのが特徴。効果のほどは定まっていないが、一部報告によればモキシデクチンより早く、効果を示したとされる。
  • サロラネル(商品名:シンパリカ、ゾエティス)
昆虫の神経を麻痺させることで殺虫する。有効性、安全性についてはよくわからないが、一部報告によれば、ほかの薬が効果が出るまで一月かかるところ、シンパリカはわずが14日目にはニキビダニの検出数が97%減少したとのこと。

2:外用薬

アミトラズ(商品名:マイタバン、日本では未承認)
マイタバンは日本で販売されていない。同じ有効成分でダニカットという農薬があり、用いることがあるが、薬の飲み合わせや、小型犬で使えないなど、禁忌が複数あるので使用は獣医師と相談すること。


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無治療で治るか?

若齢性(1歳程度まで)のニキビダニ症の場合、基礎疾患が無い場合、自然治癒する割合は30-50%と言われています。そう考えると若齢犬のニキビダニ症も治療対象として考えた方が良いと思います。
成犬でのニキビダニ症は何らかの体の不調を反映していることが多いため、自然になくなることはありません。

猫はかかかるのか?

猫ちゃんもニキビダニ症にかかることが知られています。私も一症例見たことがあります。ですが圧倒的に少ないです。報告によれば、猫エイズにかかっているなど免疫抑制状態の猫ちゃんでみられることがあるそうで、その多くは局所的にとどまるようです。

リスク因子

免疫抑制状態になる病気
免疫抑制薬を投与されている(アトピーなどの薬)
高齢、クッシング(ステロイドの影響)、甲状腺機能低下症(免疫力低下)、妊娠(妊娠維持のホルモンの影響)

皮膚に問題がある場合
皮膚が乾燥気味の犬(フケがよく出るなど)
皮膚が不潔な犬

それ以外
雌のほうがなりやすい。

犬種
特定の犬種などの報告はないものの、個々、個体のTリンパ球の働きに関係があると考えられている(検査はできない)。

飼い主の治療上の心構え

1:半年以上かかることもある。
症状が治まってもくすぶってる場合が多く、飼い主の判断で治療をやめることで再発することが多いです。多くの場合、ニキビダニが検出されなくなってから、2,3か月は治療を継続すべきだとされています。再発は同じように足先などから始まります。

2:再発しやすいことを頭に入れる。
10-45%で再発し、若い犬のほうが再発しやすいと言われています。

3:定期的なシャンプーなどを心がける。


おまけ・・コリー犬種への薬の投与についての考え方

*1 MDR-1遺伝子変異とはABCB-1Delta遺伝子ともいわれます。変異の有無はコマーシャルラボ(検査会社)で数千円で検査できます。
この変異について、ざーっくり語弊を恐れず説明しますと脳内に侵入してきた毒を脳外に排出するポンプの設計図が壊れてるという意味です。この遺伝子が正常に働かない場合、薬成分が脳内に残り異常行動や昏睡などの症状をきたします。
コリー犬種の場合、たとえ遺伝子変異がなくとも不調を訴えるケースが割とあり、変異がない場合でもイベルメクチンの投与を避ける獣医師は多いです。
またコリー犬種の場合、イベルメクチン以外にもメトロニダゾールでも同じ症状が出ることが知られています。
こういう話を聞くと、コリー犬種を飼育している飼い主さんは薬にとても敏感になる事と思います。とても良いことです。獣医師によっては薬について条件反射のように、これにはこう。あれにはあれ。と薬を処方する人がいるので、飼い主さんが気を配る必要があります。
コリー犬種に自信をもって使用できる薬の見分け方ですが、BBB(血液脳関門)を通過する薬かどうか?で判断されたら良いと思います。ご存知のように脳には必要な栄養、ホルモン以外、脳内に物質を入れない関門が存在しております。BBB(血液脳関門)をすり抜けるのは容易ではないのですが、血管をすり抜けやすい毒、薬は少なからずあり、こういった薬剤は動物におかしな副作用を引き起こす可能性があります。
獣医師から処方された薬がBBB(血液脳関門)を通過できるか?ネット上に公開されている薬の添付書、あるいはインタビューフォームを確認されたほうがコリー犬種の飼い主さんとしては安心できるかもしれません。
メトロニダゾールのインタビューフォーム:血液脳関門、胎盤を通過することが書かれている


最後に
もし愛犬の皮膚に疑わしい特徴が認められれば、動物病院を受診していただければと思います。動物病院にかかれないけど、どうにかしたい。。って思われる方も、一度は診せないと解決は無理かと思います。一時的な下痢や、嘔吐とはわけが違うので。。

参考文献
Small Animal Dermatology


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